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今月の指針10月号「創業か、守成(しゅせい)か」

 名君として名高い唐の太宗が、あるとき家臣たちに尋ねました。

「国家の創建と維持経営は、どちらがより困難だろうか。」と。


すると創業の困難を身をもって知る宰相(さいしょう)・房玄齢(ぼうげんれい)は、

「国家の創業に決まっています。群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)の時代を勝ち抜くことがいかに大変か。天下統一の難事業がそれを雄弁に物語っています。」


 これに対して側近ナンバーワンの魏徴(ぎちょう)は、

「いやいや、そんなことはありません。守成こそ困難です。どんなに苦労して天下を取っても、時が経つにつれて気が緩み、安逸(あんいつ)を貪ってしまうのが人の習い、世の常です。やがて政治が腐敗し、国家は衰退の道を辿っていくのです。歴史がそれを証明しています。」

と即座に反論したのです。


黙って耳を傾けていた太宗は、

「どちらも最も。しかし今は既に創業は過去のものとなった。これからは創業の難事を忘れず、心を一つにして守成の困難を乗り越えていこう。」と決意を語ったといいます。

『貞観政要(じょうがんせいよう)』にある有名な故事の一つです。


 人間は得てして外敵より内敵に弱いもの、人の集まる組織もまたしかりです。外敵には結束して立ち向かっても、平和の訪れと共に油断が生まれ気は緩み、我儘(わがまま)が出て、すかさずそこを魔に狙われるのです。

山賊は討ち易いが、心の賊は討ち難い、正に「己心(こしん)の魔」は難敵です。


 建設の槌音(つちおと)の中に破壊の芽は宿っています。いついかなるときにも、創業の苦難を冬の時代として銘記することが肝心です。

「すこ(少)しも たゆ(弛)む心あらば魔 たよ(便)りを う(得)べし」

    (『聖人御難事』新編1397頁)

とは、宗祖の厳しい誡めです。


また

「受くるは やす(易)く 持(たも)つは かた(難)し。さる間成仏は持つにあり」

  (『四条金吾殿御返事』新編775五頁)

とは、成仏の鍵を握る永遠の御指南です。


 「願ふても願ふべきは仏道、求めても求むべきは経教なり」。

常に初心を忘れず、魔につけ入る隙を与えず、飽くなき求道心を燃やし続けることが大切です。

御会式の月を迎え、桜花で荘厳された御宝前に御報恩と更なる折伏前進を誓願いたしましょう。


清涼寺 寺報 「従藍而青」

今月の指針 指導教師 石橋頂道 御尊師

2024年10月1日号より

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